【公式】松本忠之「中国人は反日なのか」(コモンズ出版)著者のブログ

中国が発信している情報を偏見なく紹介します。その他、趣味のサッカー(ガンバ大阪/清水エスパルス/バルセロナ)やお酒の話題など。

なぜ中国はウズベキスタンに勝てたのか?

※当ブログでは、中国1部リーグの呼称を中国で一般的に使われている「中超」に統一いたします。「中超」は中国語の「中国超級聯賽」(中国プレミアリーグ)の略で、日本でいうJ1に相当します。

アジア杯グループB第2節 中国21ウズベキスタン

今大会で一番の番狂わせかもしれない。中国がウズベキスタンを破って2連勝。第3戦を残してグループリーグ突破を決めた。中国代表を率いるぺラン監督自身が試合後の会見で「グループリーグ突破には第3戦までかかると予想していた」と語るほどの番狂わせだ。試合結果を報じるネット記事が日本でもいくつか見られ、記事コメントには驚きもあれば、試合内容としては妥当な結果だ、というものもあった。いずれにしろ、下馬評としてはウズベキスタンが勝つと思われていたし、このグループで中国が2連勝して決勝トーナメントを決めるとは思われていなかった。それが、なぜ、ウズベク戦であのような素晴らしい試合を展開することができたのだろうか?

中国サッカーを国内リーグの試合もずっと見てきた者として感じるのは、以下だ。

1、ぺラン監督の手腕

2、国内リーグのレベルアップ

3、協会の継続的努力

1、ぺラン監督の手腕

就任わずか一年弱でチームをここまでレベルアップさせた手腕は最大限の評価に値する。しかし、ぺラン監督が就任したから中国代表選手のテクニックが爆発的に成長したというわけではない。ぺラン監督が中国代表に植え付けたのは、自信、クリーンなプレー、そしてインテンシティー(プレー強度)だ。

まず自信。ぺラン監督就任後からアジア杯直前までの親善試合。その勝敗は12戦してなんと6勝1敗5分。負けは1回しかない。もちろん親善試合なので相手のメンバーや開催地など多くの要素がありこの数字だけをもって自信がついたとは言えない。しかし、中にはパラグアイに勝利したり、アジアのライバルだったタイを相手に30と完勝したり、W杯出場国のホンジュラスに引き分けたりと、確実に「これまでの中国代表とは一味違う」と思わせる試合が続いていた。これにぺラン中国の選手たちは「我々もできる」と自信をつけていったのではないか。

次にクリーンなプレー。中国代表といえば「カンフーサッカー」などと揶揄され、ラフプレーが多いと感じているのは日本人だけではない。あのジダンですら、かつて、所属クラブが中国ツアーを行うと発表したときに、「中国の選手はラフプレーが多いから中国に行ってプレーしたくない」と語ったほどだ。それが、ぺラン体制になってからどうだろう。昨日のウズベク戦をご覧になった方なら感じたと思う。リードされる展開でもプレーはクリーンで、いらいらしてラフプレーに走る昔の中国代表の姿はなかった。

そして、インテンシティー。球際の激しさ。労を惜しまず走る。あきらめずにボールを追う。倒れてもすぐ起き上がる。奪われたらすぐに奪い返しにいく。プレーの姿勢そのものが大きく変化した。これらはすべて、ぺラン監督が植え付けたものだ。招集できる時間に制限がある代表チームでは、テクニックを向上させるトレーニングは難しい。それゆえ、ぺラン監督はテクニック以外のところ、しかも勝つために必要な部分をメンタルを中心に植え付けることに成功した。それが中国代表が大きく成長した要因だろう。

2、国内リーグのレベルアップ

広州恒大がアジアの強豪クラブであることは、もはや誰も否定できないであろう。ここ数年は、この広州恒大がけん引する形で中国国内リーグは驚くべきスピードで成長してきた。時に「中国クラブは豊富な資金で外国人選手を連れてきてるだけで、中国人選手のレベルアップが進んでいない」などと言われることもあり、これは一理はあるが、全てがそうというわけではない。これまでは、リッピ監督のような世界的監督もいなければ、岡田監督のような育成めで含めた総合プロデューサー的な監督もおらず、ましてや元イタリア代表クラスの選手もいなければ、ブラジルやアルゼンチンのリーグで中心選手となれるレベルの選手を連れてこれるわけでもなかった。しかし、今はどうだろう。そういうリーグで、そういう監督のもとで、そういう選手と共に、数シーズンプレーしてきたのだ。それで中国人選手だけが何も変わらないわけがないのだ。まして、国内リーグの成長により、ACLでJやKのクラブとも互角にやりあえるようになった(広州にいたってはJやKよりもはや格上ともいえる)。国際舞台でも以前のように勝てない状況ではなくなってきたのだ。そういったここ数年ACLに出場している広州恒大山東魯能北京国安江蘇舜天貴州人和などの選手から中国代表は形成されている。国内リーグのレベルアップを国際舞台で感じている選手たちが今回の中国代表選手なのだ。

3、協会の継続的努力

中国のサッカーが1990年代後半から2010年頃まで低迷期に入っていたのは、はっきりいって「お上のせい」という部分も否めない。象徴的な事件は八百長だ。時の中国サッカー協会会長が八百長で失脚。想像してみてほしい。現日本サッカー協会の会長がもし、八百長などしていたらどうだろう。しかも、会長はあくまで象徴的人物であって、芋づる方式で協会、地方の協会、クラブ幹部、監督、選手など、次々と摘発されていったのだ(もちろん全員ではなく一部だが)。サッカーという競技そのものの基盤となるべき組織や人物が汚職に手を染めていて、国内リーグや代表チームが強くなるだろうか。そしてそういった事件が明るみになって、選手たちにモチベーションが生まれるだろうか。だから、中国が低迷していたのはある意味では必然だった。それを、中国サッカー協会は本格的に改善してきた。さらに強化のためにユース世代や学校でのクラブ活動としてのサッカーにも力を入れ始めた。広州恒大などのビッグクラブはユースチームやサッカースクールを持ち始めた。そう、中国サッカー界を取り巻く状況が非常に前向きに変わってきたのだ。それがここ数年の現象で、2010年以降からその成果が徐々に出始めてきた。まずはクラブレベルで、そして今回は代表レベルで。

そもそも、中国人はアスリートとしての身体能力は非常に高い。そして、それを活かすトレーニングも一流だ。それはオリンピックでのメダル数が証明している。だから、サッカーの代表チームもいい選手を選び、世界を知る監督を招へいしてトレーニングを施し、協会が正しい方向へ導けば、強豪国になりうる要素はもっているのだ。そこへきて世界第2位の経済大国となり資金的にも恵まれてきた。今こそ、中国代表が低迷期を抜け出し、アジア、そして世界へ羽ばたいていく、第一歩なのかもしれない。

今回のアジア杯でアジアのベスト8入りという実績を作った。さぁ!中国代表の新たな歴史の1ページへ。まだ第3戦の北朝鮮戦を残しているが、その先、オーストラリアもしくは韓国とのベスト8へ。注目だ。

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小松英之(こまつひでゆき)

サッカーコラムニスト。

サッカー専門ブログ「BEE Football Spirit」アドバイザー、コラムニスト。

【略歴】

静岡生まれ。

小さい頃から地元の高校である清水商業(当時)や清水東、東海第一(当時)、静岡学園などの試合を見て育つ。Jでは清水サポ。大学卒業後に中国に渡り、日本代表やJリーグの観戦ができなくなるが、あふれるサッカー熱は抑えきれず中国サッカーの観戦及び取材を行うようになる。

【観戦経験】

英プレミア:マンU(香川在籍時)、チェルシーマンチェスターC。

リーガ:バルセロナ

セリエ:ユベントス、ローマ。

ブンデスニュルンベルク(長谷部、清武在籍時)、ハンブルガーSV

欧州CL:バルセロナベンフィカ

【中国Cリーグ】

中国サッカーへの造詣が深く、山東魯能をはじめ上海申花武漢卓アルといったクラブ関係者と交流があり、Jリーグのアジア枠設置に伴い、中国人選手がJリーグへ移籍する際の窓口の一つにもなっている。また、元中国サッカー協会会長の閻世鐸氏とは何度も会食している。

08年 Cリーグ武漢光谷の日系企業スポンサー募集担当。

08年 山東魯能のCリーグ優勝祝賀パーティーに日本人として初めて正式招待。

09年 アジアチャンピオンズリーグ 山東魯能日本人アドバイザー。

※当ブログでは、中国1部リーグの呼称を中国で一般的に使われている「中超」に統一いたします。「中超」は中国語の「中国超級聯賽」の略です。

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