【公式】松本忠之「中国人は反日なのか」(コモンズ出版)著者のブログ

中国が発信している情報を偏見なく紹介します。その他、趣味のサッカー(ガンバ大阪/清水エスパルス/バルセロナ)やお酒の話題など。

中村祐人非凡なる才能を持ったポリバレントなプレーヤー

※当ブログでは、中国1部リーグの呼称を中国で一般的に使われている「中超」に統一いたします。「中超」は中国語の「中国超級聯賽」(中国プレミアリーグ)の略で、日本でいうJ1に相当します。

中村祐人選手(以下、敬称略)。香港プレミアリーグSouth China(サウスチャイナ)所属。173cm、73kg。27歳。これまでに同じく香港プレミアリーグのTSWペガサス、公民、またポルトガルのポルティモネンセに所属した経歴がある。

この度、香港のカップ戦(Senior Shield)準決勝・South China(サウスチャイナ)vs Easternを観戦した。名前だけは聞いて知っていたが、海外で活躍する非凡な才能を持った日本人選手をこの目で見ることができる絶好の機会とあって、自然と期待が高まる。試合は残念ながら13で中村選手が所属するサウスチャイナは準決勝敗退となってしまったが、発見の多い有意義な観戦となった。

石垣島よりも南に位置する香港の12月は朝と夜が寒く日中は過ごしやすい気温。クリスマスが終わりニューイヤー(とはいっても香港は旧正月だが)へ向かう週末の昼下がり。15:00キックオフ。会場となったモンコックスタジアムにはほぼ満員の観客が詰め掛けた。サウスチャイナの試合は観客数が多い。さすがは香港の名門クラブである。

サウスチャイナの布陣は442。背番号14の中村は2トップの左に入ったが、試合中にこの2トップは左右が自由に入れ替わっていた。

試合はサウスチャイナにとって非常に苦しい展開となってしまう。前半わずか8分、コーナークックから先制点を奪われると、その2分後には追加点を奪われる。さらに前半27分には3失点目。試合はカップ戦の一発勝負。これで残りの時間サウスチャイナはどれだけリスクを犯してでも得点を奪いに行かなければならなくなった。

3失点後、徐々にゴールのにおいがしてきたサウスチャイナ。右サイドからの崩しで何度も得点チャンスを作り出す。そして前半38分。サウスチャイナに待望のゴールが生まれる。決めたのは中村だ。左からの攻撃でファーサイドに流れたボール。角度のないところから冷静にゴールキーパの動きを確認し、足を折りたたんで技ありのゴール。ワールドクラスのテクニックを見せ付ける。これで31。反撃ののろしだ。だが…

前半の終盤に激しい接触プレーで倒れこんだ中村。一度は起き上がるも、ふらついてまたピッチに倒れこむ。これを見た瞬間、中村選手を目当てに観戦にきた私はもうだめだろうと覚悟した。担架でピッチを離れた中村は少ししてピッチに戻ったが、その時点で前半は残りわずか。おそらく後半開始からの交代になるだろうと予測した。前半終了。31。

しかし、後半が始まってみると…なんと背番号14がいるではないか。ただし、ポジションは2トップの一角ではなく、中盤。それも深い位置に入って守備と攻撃をつなぎ、攻撃時には組み立て元となる位置。これが前半の接触プレーの影響なのか、それとも純粋に戦術的な理由なのかは定かではなかったが、いずれにしろ試合展開的にはあと2点は取らなければならない状況。攻撃に力を注ぐ布陣には違いない。そして、この布陣がぴたりと機能する。後半開始後、サウスチャイナは前半とは打って変わって相手をどんどん押し込む。攻撃が活性化。これなら十分追いつけるという雰囲気があった。個人的には前半の布陣よりも後半の布陣のほうが好きだ。中村がビルドアップし、パスを配給し、またワンタッチや細かいパスで攻撃のリズムを作り出す。173cmと小柄な中村だが、プレーのリズムは群を抜いていた。リズムが違うのだ。22人いるピッチ上で、一人だけ独特のリズムを放っている。それは、ステップ、ボールタッチ、パス、ポジション…一挙手一投足が違うのだ。そんな中村の世界レベルを後半にも感じた。それは次のプレーを読む力だ。

相手ゴール前でチャンスを作り、それが相手DFに跳ね返された後だ。スタジアムからはゴールチャンスを防がれたサウスチャイナ・サポータのため息がこぼれるのだが、次の瞬間、そのため息は再び歓声に変わる。中村がそこにいるのだ。相手DFがはじき出したセカンドボールを虎視眈々と狙っている…しかも、そのポジショニングが絶妙なのだ。決して相手DFのクリアボールが偶然、中村のところへきているわけではない。パスを配給後、攻撃の展開を読み、ポジションを移し、そしてセカンドボールを狙う。そのすばらしい先を読む力があるからこそのプレーだ。そして同時に、セカンドボールを拾うことで必然的に相手のカウンターを防ぎ、攻撃に厚みを持たせることができる。FWでも活躍できる選手が中盤の底でもこれだけのプレーができる。まさにポリバレントな選手だ。

しかし、ピッチを走る中村の姿を見ていると、どうしても普通の状態ではないようにしか見えない。案の定、後半途中で交代。試合後にわかったことだが、軽い脳震盪だったとのこと。幸い、今後のシーズンには問題ないそうだ。ただ、もしも前半のあの接触プレーがなく、中村の状態が万全で、試合終了までプレーし続けていたら…そう思わざるを得ない悔しい展開。中村交代後、サウスチャイナは攻め続けるも最後までゴールを割ることができずタイムアップ。13で敗れた。

それにしても、繰り返しになるが、前半と後半でポジションを変えて、あれだけ高い質のプレーができるというのは特筆すべきだ。攻撃的選手ならFWも攻撃的MFもできることはできるが、両方を高い質でできるかどうかは別問題。しかし、中村はゴールを決める決定力もあれば、パスを配給し攻撃のリズムを作る役割もできるし、セカンドボールを拾う読みの鋭さもある。いずれも高い質でできるのだ。

海外で活躍する非凡なる才能を持った日本人選手をこの目で見られたことで、またひとつ、素晴らしい経験をさせてもらった一日であった。

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小松英之(こまつひでゆき)

サッカーコラムニスト。

サッカー専門ブログ「BEE Football Spirit」アドバイザー、コラムニスト。

【略歴】

静岡生まれ。

小さい頃から地元の高校である清水商業(当時)や清水東、東海第一(当時)、静岡学園などの試合を見て育つ。Jでは清水サポ。大学卒業後に中国に渡り、日本代表やJリーグの観戦ができなくなるが、あふれるサッカー熱は抑えきれず中国サッカーの観戦及び取材を行うようになる。

【観戦経験】

英プレミア:マンU(香川在籍時)、チェルシーマンチェスターC。

リーガ:バルセロナ

セリエ:ユベントス、ローマ。

ブンデスニュルンベルク(長谷部、清武在籍時)、ハンブルガーSV

欧州CL:バルセロナベンフィカ

【中国Cリーグ】

中国サッカーへの造詣が深く、山東魯能をはじめ上海申花武漢卓アルといったクラブ関係者と交流があり、Jリーグのアジア枠設置に伴い、中国人選手がJリーグへ移籍する際の窓口の一つにもなっている。また、元中国サッカー協会会長の閻世鐸氏とは何度も会食している。

08年 Cリーグ武漢光谷の日系企業スポンサー募集担当。

08年 山東魯能のCリーグ優勝祝賀パーティーに日本人として初めて正式招待。

09年 アジアチャンピオンズリーグ 山東魯能日本人アドバイザー。

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