【公式】松本忠之「中国人は反日なのか」(コモンズ出版)著者のブログ

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【徹底分析】ザックの采配は正しかったのか!?オマーン戦を徹底分析

イングランド・オランダ・日本・中国の各国の指導者ライセンスを所持するサッカースクール!

小松英之の連載がブログで紹介されました!

オマーン12日本

勝ち点3は取った。結果がすべてのW杯予選。W杯に出場することが第一目的。その意味ではしっかりと任務を全うした。では、「オマーン戦」という、この1試合に限って視点を当ててみると、果たしてどうだったか。

多くの人が感じたのはやはり「采配」だろう。

ここでオマーン戦でのザックの采配を振り返ってみる。

一人目の交代は後半19分。10で日本がリードしていた場面だ。

FW前田に代えてSB酒井高徳を投入した。誰もが「じゃ前線はどうなるの?」と瞬間思ったはずだ。しかし、その答えはすぐに先の欧州遠征にあることに気付く。そう、本田の1トップだ。

この交代によって、まず前田の抜けた1トップに本田が入る。本田がいたトップ下には清武。清武がいた左MFに長友。そして長友のいた左SBに酒井高徳。布陣はこう変わった。

後半19分で10。敵地での対戦。まだまだ守りに入るような時間帯ではない。しかし、とにかく酷暑で選手の疲労は激しい。現に酒井宏樹は「前半終わった時は試合終了くらい疲れてました」と語っていた。ハーフタイムのベンチで選手の消耗度をその目で見ていたザック監督の采配に影響しないはずがない。

完全に守りの体制ということではなかったが、1トップをはずしてFWの選手をなくし、中盤に厚みをもたせて、守備重視の布陣にしたことは確かだろう。試合時間が残り15分を切った時点で10日本リード。しかも、相手の攻撃は前半ほどの脅威を見せなくなっていた(オマーン選手もさすがに暑さで消耗してきていた)。それだけに、「このまま10で乗り切れる」という心理が生じてくることは自然なことだ。

しかし、後半32分。セットプレーから失点する。

セットプレーというのが痛かった。流れの中で決められれば采配の問題だが、セットプレーは采配とは関係がない。それだけに、あそこでファウルを犯してしまった吉田のプレーが惜しまれる。イエローがほとんど出ない(全試合を通してオマーン選手ムバラクの1枚だけ)クリーンな試合であったが、あそこは位置が悪すぎた。

しかし、失点してしまったのなら仕方がない。

問題はその後どうするか、だ。

もう1点を取りに行くのか。引き分け狙いで行くのか。残り時間は(ロスタイムを予想して)15分。

次にザック監督が送り込んだのは細貝だった。変わったのは最初の交代からトップ下に入っていた清武。ポイントは投入した時間。後半39分。残り時間が5分ほどという状況だ。これならメッセージは明確。「守り」である。守りということは、引き分けということである。ただ、積極的に引き分け狙いというよりは、最低限引き分けだよ、もうそれほどリスクを犯してまで攻める必要はないぞというザックのメッセージだろう。

実際、ザックはこの交代について、

「中盤にエネルギーのある選手を置きたかった」と語った。細貝に出した指示は「真ん中に残れ」。指揮官自らが試合中に「引き分けでいい」とは言わないだろう。ただ「リスクを避けなさい」「無理して攻めるな」というメッセージであることは明確だ。

アウェイ、中東、試合開始時の気温35度以上。オマーンはホームで負けが少ない。そういう要素を考えると、引き分けは最低限の結果。恐らく多くの人が引き分けを覚悟しただろう。

ただ、ピッチ上の選手は違った。G大阪・遠藤のコメントだ。

「(監督から)引き分けを狙えとはいわれなかったけど、ちょっと弱気だったかな」。後半の選手交代を含む状況をそう説明した遠藤は、しかし、続けて「ピッチは勝ち切ることだけを考えていた」。

ここに、日本代表の成長がある。

監督のメッセージは「リスクを負うな」「無理して攻めるな」。

しかし、ピッチ上の選手たちはあくまで「勝ち切る」で統一されていた。勝ち切るとはもちろん、ゴールを取りにいくということだ。しかも、遠藤だけがそう感じていたのではない。チーム全体がそれを共有していた。だから、酒井高徳があそこで見事な突破を見せた。遠藤はしっかりそこへ飛び込み、最後は岡崎が詰めていた。「もう一点取るぞ」。その共有がなければ、いずれも足が止まって実現されることのないゴールシーンだった。

事実、遠藤は「今回も苦しんだけど、成長したなと思った」と感想を述べている。これはもちろん、チームとしての成長を意味する。監督のメッセージを聞かないということではない。監督のメッセージを受けつつも、最終的にはピッチにいる選手が決めること、ということだ。しかも、それはチーム全体で共有しなければ、逆に11人がバランスを崩して失点してしまう可能性がある。試合の流れの中で、監督のメッセージもある中で、その中でも選手同士がしっかり状況判断でき、なおかつ、イメージを共有し、「行くのか、行かないのか」「どこまで行くのか」「ここで行く!」というイメージをきちんと共有できていた。

まさに、先の欧州遠征、フランス戦のゴールを髣髴とさせる、「チーム内の状況判断とイメージの共有」だった。あの時も、「ここだ!」と一斉に日本代表の数人の選手にスイッチが入った。そして、CBの今野がドリブルで攻め上がり、左SBの長友が右に流れて、最後は香川が押し込んだ。「ここぞ」というときは、ピッチでの判断、さらにはフォーメーションのバランスを崩してでもゴールを狙う。これが、イメージが共有できているということである。

あのまま引き分けに終わっていても、最低限の結果として受け止められただろう。なにせ失点はセットプレー。ザックの采配は間違ってはいない。しかし、積極的かといわれると、そうでもなかった。ザックが「一番心配」と語っていた、暑さによる選手の消耗。それは、選手だけではなく、ザック監督の采配にまで影響を及ぼした。

「勝ち切る」という成長を見せた日本代表。

「ピッチ内で判断し、そのイメージを共有する」という進歩を見せた日本代表。さらに、香川、内田、駒野を欠きながらもW酒井、清武といった選手に安定したプレーと大活躍があったこと。

この勝利は、「勝ち点3」だけでなく、「日本代表の成長」という大きな価値が付随した勝利であった。

<筆:小松英之>

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