【公式】松本忠之「中国人は反日なのか」(コモンズ出版)著者のブログ

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コラム:「サッカーはスポーツ界の問題児?」

中国サッカー魂編集部

※諸事情により漢字で「中国」と表記すべきところを、一部「チャイナ」と表現しています。

ついに政府機関までもが批判

チャイナサッカー協会の名物会長、謝亜龍(シエ・ヤーロン)会長。

代表Aチームが2010年南アW杯のアジア3次予選で敗退したのを受け、国内で批判が高まっている。

チャイナでは卓球と並んでサッカーが人気ナンバーワン・スポーツであるが、A代表が常に結果を出せない状況が続いていることから、謝亜龍(シエ・ヤーロン)会長への国民の不満はかねてからずっと存在していた。2002年日韓大会において初めてW杯本大会に進んだが、それは日本・韓国が予選を免除されたためであり、それはチャイナ国民もよく知っている。チャイナ代表は、その後のドイツ大会、そして今回の南ア大会も本大会進出を逃した。

しかし今回はこれまでとは不満の性質が少し違う。

それは、国家体育総局がサッカー協会に対して不満を露わにしたからだ。国家体育総局とは、チャイナ国内のすべてのスポーツを管理する政府機関。国内のオリンピック協会を始め、すべての競技の協会がこの傘下に入っている。この体育総局から、「スポーツ界の問題児」扱いをされてしまったのだ。

ご存知のように、チャイナは某政党の一党独裁。すべての権力は政府機関に集中しており、政府機関から睨まれることはその組織や人物の行く末が危うくなることを意味する。謝亜龍(シエ・ヤーロン)会長もさすがにこれには焦りを覚えたようだ。

その証拠に、青島日報の報道によると、6月25日、中国サッカー協会の内部会議が開かれ、謝亜龍(シエ・ヤーロン)氏は北京五輪のサッカーについて、ノルマを男子がグループリーグ突破、女子がベスト4進出が最低条件と設定。何があっても目標を達成せよとげきを飛ばしたという。

受難の年・2008

もっとも、国家体育総局がサッカー協会に不満の意を示したのもうなずける。特に今年は中国サッカー界においてまったくいいニュースがないからだ。

まずは2月にチャイナで行われた東アジア選手権。日本、チャイナ、韓国、北朝鮮の4カ国が参加して行われたこの大会において、チャイナ代表のあまりにひどいラフプレーの数々には、相手国のみならず、チャイナ国内からも批判が続出した。ラフプレーは特に日本戦がひどく、チャイナGKがジャンプしてボールを処理した際に日本選手に蹴りをいれる、競り合いで頭にきたチャイナ選手が日本選手の首をつかむなど、およそサッカーとは呼べない悪質なプレーの数々は、日本のサポーターもまだまだ鮮明に記憶していることであろう。

また、同じくこの大会ではレフェリーの八百長疑惑まで飛び出した。これもまた日本代表が最も被害をこうむった。北朝鮮レフェリーのあまりに不可解な笛に、選手のみならずサポーターまでもが大きく首を傾げ続けた。

代表ではないが、3月5月にかけて行われたクラブACLでは、中国のCリーグから出場した長春と北京の両チームが予選リーグで破れ、Cリーグのレベルの高さを見せ付けることができずに終わった。Cリーグは決してレベルの低いリーグではないのだが…

そして、6月にはA代表の3次予選敗退。

まさに今年は中国サッカー界にとって受難の年となってしまった。

考え直すべきは協会の体質

結果がほしいのはどの国の協会も同じだ。しかし、チャイナサッカー協会は結果を求める前に、まず協会自身の体質改善が必要ではないか。

一説によると、2月の東アジア選手権の対日本戦を前に、謝亜龍(シエ・ヤーロン)氏は過去の戦争の歴史を持ち出し、「(会場となった)この重慶の地も、日本軍に蹂躙された地だ。なんとしても日本を倒せ」と檄を飛ばしたといわれている。

スポーツに政治を持ち込むべきでないにも関わらず、協会トップが結果欲しさにこのような形で選手の闘争心を煽っているようでは、とてもではないが明るい未来は望めない。どうして実力でぶつかれといえないのか。どうして戦術で勝てと言えないのか。だったら、過去の歴史を引き合いに出して、オリンピックも日本選手の出場を禁止するとでも世界に向けて宣言すればいい。

2月の東アジア選手権の対日本戦。確かに中国選手達のラフプレーを見逃すわけにはいかないが、しかしそこにはどうしても一党独裁体制により教育を受け、自由を奪われてきた選手達の悲しい背景が見え隠れして、どこか同情的になってしまう。

また、代表監督と協会との内紛も尽きないようだ。今大会の代表チームを率いたのはフラド監督であったが、恐らく不満ややりきれない気持ちがたくさんあったように思う。しかし、あくまで憶測の域を出ないが、協会や果てはその背後に控えている体制側の存在に配慮して、言いたいことが自由に言えなかったのではないか。

思えば、日本では過去にトルシエなどは平気でマスコミに対して協会への不満を語ったことがあった。ジーコオシムも、激しい口調ではなかったが協会に対して苦言を強いたことがあった。しかし、これで初めて正常といえるだろう。何もかも協会の言いなりであるならば、監督の意義など存在しない。

なにせ体制側にとって不都合な情報や批判が規制されるのがこの国のメディアであるため、真相をつかむことは難しい。報道される否定的な内容はいずれも体制側にとっては「許容範囲内」の情報であって、体制を揺るがすような発言や事実は一切報道されない。しかし、国家中央政府ならともかく、サッカー協会ならば許されてもいいのではないか。一国を揺るがすようなことにはならないのだから。

ここに、現チャイナサッカー協会の幹部がその地位を必死で守ろうとしている姿が見え隠れしてならない。しかし、トップが自分の地位を守ることに必死になり、それによって現場が押さえつけられている状況では、この国のサッカーの発展は望めない。難易度はともかく、早急な改革が必要であろう。

愛すべき選手達

Cリーグの試合を数多く観戦し、またチャイナ国内で放送されているサッカー番組を見ていると、チャイナの選手達は決して2月の日本戦で見せたようなマナーが悪く粗雑な選手ではないことがわかる。また、プレミアリーグで活躍する選手が出てくるなど、レベルの底上げも行われてきている。

そもそもアジアの中でも体格に恵まれ、身体能力も備えているチャイナの選手たちにはとても将来性がある。今、この国の協会に求められているのは、その才能と実力を発揮させる教育や環境を整えることではないか。多くのことが規制され、自分の意見が反映されないという国家事情の中で、それでも選手達はサッカーを愛し、サッカーに自分の人生を捧げているのだ。それを思うとき、チャイナの選手達は愛すべき存在であることに気づかされる。

しかし、感傷にひたっても何も生まれない。明日はCリーグの第12節もある。

これからもこの国の愛すべきサッカー選手たちを見つめ続けていきたいと思う。

筆者紹介:

小松英之(こまつひでゆき)。静岡生まれ。

小さい頃から地元の高校である清水商業や清水東、東海第一(当時)、静岡学園などの試合を見て育つ。大学卒業後に中国に渡り、日本代表やJリーグの観戦ができなくなるが、あふれるサッカー熱は抑えきれず中国サッカーの観戦及び取材を行うようになる。中国のプロサッカーリーグであるCリーグの観戦多数。

また、中国女子サッカー代表の監督を務め、現在Cリーグの強豪・山東魯能でコーチを務める張海濤コーチとは、家にも行ったことがあるほどの仲。現在同コーチはドイツのケルンFCにてコーチ留学中で、ドイツでのコーチ留学の状況を聞けるなど、貴重な交流を重ねている。

提供:ビッグイーストグループ