【中村祐人】独占インタビュー(2015春) 第4章理想のFW像
4月の特別企画として、毎週の土曜日と日曜日に新連載を配信いたします。
タイトルは「【中村祐人】独占インタビュー(2015春)」。
香港プレミアリーグの名門・サウスチャイナで活躍する日本人選手の独占インタビューをお届けいたします。
聞き手は中国サッカーに造詣の深い当ブログ執筆者の松本忠之氏。
本日は第四章をお届けいたします。ぜひとも最後までお楽しみください!
—FWと一言でいっても、いろんなタイプのFWがいます。ドリブラーやスピード系、ポストプレー、高さや強さで勝負するタイプなど。中村選手はご自身ではどんなタイプのFWだと思っていますか?
中村「僕はひとつの優れた能力で勝負するタイプではなく、(監督やチームから)求められることをプレーするタイプですね。だから、それこそ、中盤をやれと言われればできますしね」
—確かに。私が最初に見た中村選手の試合でも、FWで先発したものの、後半からは中盤でプレーしていました。
中村「先日の試合(ロスタイムで決勝ゴールを決めたリーグ杯準決勝)でも、最初は右でプレーしてましたからね。でも、7番の選手(陳肇麒選手)から真ん中で(プレーしてほしい)って言われて、それから真ん中やりましたからね」
—そのユーティリティ性はすごいですね。前でも中盤でも、また右でも左でも。逆足でのプレーも全然問題ありませんか?
中村「ないですね」
—器用ですね。
中村「いや、プレースタイル的には不器用ですよ。僕はセカンドボール狙うタイプですし。セカンドボーラーって不器用でしょ?」
—でも、それも大事な要素ですよね。
中村「セカンドボールや裏への飛び出し。そういうプレーを大切にはしていますね」
—そんな中村選手にとっての理想のFW像というのは?
中村「ラウールですね。日本なら柳沢選手」
—そうですか!柳沢敦選手はちょうど、つい最近、現役引退を表明されましたね。ただ、水を差すようですが、柳沢選手は一般的なイメージでいうと、2006年ドイツW杯のグループリーグ第二戦vsクロアチアで決定機をはずしてしまった、あのプレーの印象がとても強烈で、FWとして真っ当な評価を受けていないように思えます。あくまで一般的なイメージですが・・・
中村「ただ、柳沢選手は得点以外の部分でのプレーは完璧です。ポストプレーやワンタッチプレー。柳沢選手と組むFWの選手は皆、すごくやりやすいでしょうね」
—なるほど。
中村「体の使い方、周りの活かし方。僕もビデオを見て研究しましたよ」
—ずば抜けた身体能力。例えば、ずば抜けて足が速いとか、ずば抜けて背が高いといった身体的特徴がない選手が、それでも厳しいプロの世界で勝ち残っていくには、そういう「身体能力以外の部分」を磨く方向に進んでいくものなのでしょうか?
中村「そういう傾向はあるかもしれませんね」
—ずば抜けた身体能力はそれだけでひとつの武器ですもんね。
中村「僕なんかは、例えば大学時代のチームの中で、身体測定は最下位だったんですよ」
—そうなんですか?
中村「身長もないし、ジャンプ力、50m走、メディスンボール投げ・・・全部ビリです。スタミナが少しあって、10mダッシュはまぁ速いな、くらいの。だから、そういう(身体的特徴)の中で、いかに生き残るかということを探してきた、というのはありますね」
—なるほど。
中村「やっぱり僕みたいなタイプの選手は頭を使わないと生き残れませんから。だから、プレーの中でも、ポジショニングだったり、周りを活かしたり。そういうところで勝負してきた、というのはありますね」
—サッカーにおいて、身体能力はもちろん武器になりますが、しかし一方でサッカーは個人競技ではないので、周りとの連携や戦術理解の部分でも優れた能力が必要になりますからね。
中村「さらに身体的なハンデという部分では、僕、めちゃくちゃ偏平足なんですよ」
—偏平足。足の裏が平らなんですね。
中村「はい。それはもうすごいですよ。真っ平です。それってマイナスですからね」
—そんな中、プロとして活躍できている。並大抵の努力ではそこまでたどり着くことはできませんね。
中村「まぁ運もあったと思いますよ」
—やはり、フィジカル以外の面で、ずば抜けた素晴らしい能力があるから、なのでしょうね。
中村「どうなんでしょう。ただ、監督から指示されたことはきっちりやりますよ。毎試合、各選手に対してオーダーがあって、まずはそれをきちんとやる。その上で、自分の持ち味を失うことなくプレーする。例えば今の僕ならセカンドボーラーなんで、そりゃもうゴール前には全速力で入っていきますよ」
—ちなみに、現在の指揮官であるアルゼンチン人のマリオ監督は試合での決まりごとや規律は多いほうですか?
中村「いや。わりとオーソドックスな監督なので、特別に多くはないです。ただ、選手起用や采配は抜群にうまい。なので、そこの部分での監督の意図はきっちり把握するようにはしています。それこそ、僕を中盤で起用したりとか、大胆な采配をする監督ですね」
—選手からの信頼も厚いようです。
中村「自由度はある程度与えてくれるんでね。例えば、(先述したように)7番の選手と僕が試合中に真ん中と右でポジションを入れ替わっても、監督は何も言いませんからね」
—試合中の選手の判断には寛容なのですね。
中村「ただ、ポイントとなる試合の戦術に関してだけは、ものすごく厳しく言ってきます。先日のニューイヤーズカップ(※2015年2月19日サウスチャイナvsニューヨーク・コスモスのゲーム)でも、僕は監督から守備時はマルコス・セナをマークするように言われてたんですね。でも、試合中の判断で少しマークを緩めたんです。その時はめちゃくちゃ言われましたね(笑)」
—自由度の高い監督と、細かく規律を設ける監督。中村選手にとってどちらがプレーしやすいですか?
中村「どうですかね・・・。僕はどちらかというと感覚を大事にしてプレーするほうなので、自由なほうがやりやすいですかね」
—今、感覚を大事にしているとおっしゃいましたが、例えば中村選手の特徴である、ポジショニングや周りを活かすプレーなど、そういうプレーはより感覚の部分が求められると思います。その部分は経験やトレーニングによって、プロとして高いレベルまで向上させていけるものなのでしょうか?
中村「いや。そこはもう才能の部分でしょうね」
—やはりそうですか。私もそう思います。サッカーは瞬間、瞬間で局面が変化するし、瞬間、瞬間で判断が求められ、またまったく同じ局面が他の試合でも来るということはまずない。ですから、そういう感覚はトレーニングで身に付けるのは非常に困難です。
中村「その部分はね、もう持って生まれたものですよ。感覚なのでね。でもそれは他の能力についても言えることで、僕にとっては守備がそうで、どれだけトレーニングを積んでも、僕がプロのDFとしてやっていくことはできないでしょうね」
続く
松本忠之(まつもとただゆき)
サッカーコラムニスト。
サッカー専門ブログ「BEE Football Spirit」アドバイザー、コラムニスト。
【略歴】
静岡生まれ。
小さい頃から地元の高校である清水商業(当時)や清水東、東海第一(当時)、静岡学園などの試合を見て育つ。Jでは清水サポ。大学卒業後に中国に渡り、日本代表やJリーグの観戦ができなくなるが、あふれるサッカー熱は抑えきれず中国サッカーの観戦及び取材を行うようになる。
【観戦経験】
英プレミア:マンU(香川在籍時)、チェルシー、マンチェスターC。
リーガ:バルセロナ
セリエ:ユベントス、ローマ。
ブンデス:ニュルンベルク(長谷部、清武在籍時)、ハンブルガーSV
【中国Cリーグ】
中国サッカーへの造詣が深く、山東魯能をはじめ上海申花や武漢卓アルといったクラブ関係者と交流があり、Jリーグのアジア枠設置に伴い、中国人選手がJリーグへ移籍する際の窓口の一つにもなっている。また、元中国サッカー協会会長の閻世鐸氏とは何度も会食している。
08年 山東魯能のCリーグ優勝祝賀パーティーに日本人として初めて正式招待。
09年 アジアチャンピオンズリーグ 山東魯能日本人アドバイザー。
※当ブログでは、中国1部リーグの呼称を中国で一般的に使われている「中超」に統一いたします。「中超」は中国語の「中国超級聯賽」の略です。
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