【公式】松本忠之「中国人は反日なのか」(コモンズ出版)著者のブログ

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【縦横無尽】意識メタボ

【意識メタボ】
現役を引退したイチローが数年前のあるインタビューで「頭でっかちになりがち」と語っていた。インタビュアーからメジャーリーグに挑戦する日本人選手がウェイトトレーニングを増やして筋肉を増やす(体格を大きくする)傾向にあることについて問われて答えたものだ。「筋肉を増やしてもそれを支える関節や腱は大きくできない」ことから「人間は持って生まれた(体格の)バランスがある。それを崩してまで筋肉を付けることは意味がない」と。一方で、引退会見では「(今のメジャーは)考えなくて済む野球になっている」と語っている。自分がメジャーデビューした頃と比べて今のメジャーリーグはどうかと問われてそう答えた。
「頭でっかち」と「考えなくて済む」。一見矛盾するようだが、私は同じことを語っていると思った。どちらも意識だけで物事を解決しようとする、逆に言えば身体や感覚を極端に無視する傾向のことを言っているのだろう。
メジャーの選手は体格が大きいから、日本人も腕、胸板、足などに筋力を付ける。ここにこういう筋肉を付ければ、バッティングの飛距離が伸びる、投球が速くなる…。もちろんスポーツ科学の分析でそういう結論が出ることもあろう。だがイチローは科学的分析よりも自分の持って生まれた身体のバランスを優先した。また、あらゆるバッターのこれまでの打球を分析し「この方向によく打つ」との結果から極端な守備シフトを敷くなど、近年のメジャーでは分析結果に従い、選手に「こう守れ」と指示するのが普通になっている。だがそこでは投手や打者のその日の調子や天候などの個体差は無視される。
要するにバランスが悪い。現代は意識の比重が大きくなりすぎている。ではその意識は何をしているかというと「予測と制御」に尽きる。「こうなる」と予測し、「その対策のためにこうしろ」となり、その結果「こうなった」。この繰り返しである。そしてこのサイクルが「先進的」という価値観になった。サイクル自体が悪いのではなくバランスが悪いのだが、私から見るとこの価値観への執着がもはや宗教的ですらある。人間と社会が「予測と制御」のサイクルでコントロールできないものすらコントロールすることに何の疑いも持たなくなった。コントロールできないものの代表が自然、身体、そして未来である。そこでは個体差が無視される。自然、身体、未来。いずれも一人ひとりの、あるいは一つひとつがかけがえのない(変えの効かない)個性ではなかったか。その個体差が極端に無視されて久しい。私は最近、これを「意識メタボ」と呼ぶようになった。意識の肥大化による個体差の無視。昔は「滅私奉公」で個性を無視してきたが、現代日本は「意識メタボ」でまた個性を無視している。
もう一度イチローの言葉を思い出してみる。「人間は持って生まれた(体格の)バランスがある。それを崩してまで筋肉を付けることは意味がない」。まさに自分という一人のかけがえのない存在を全体の傾向に流されることで失わないようにしているのだ。「(今のメジャーは)考えなくて済む野球になっている」。まさに一人ひとりのかけがえのない考えを無視して、指示されたことをやればいいという傾向に警句を発しているのだ。
それでも私はアメリカの意識メタボはまだマシだと思える。同調圧力、横並び、集団への帰属意識が強い日本人は全体が「意識メタボ」になると個体差は無視「される」というより、個人個人が個体差を「無視して」全体に流れる。体型の肥満者は圧倒的にアメリカ人のほうが多く日本人は少ないが、意識メタボは圧倒的に日本人のほうが多いと思う。OECD経済協力開発機構)の「自分を健康だと思う人の割合」という調査では、90%に近いアメリカ人が「自分は健康だ」と思っているのに対して、世界最長寿国の日本人は30%にも満たなかったそうだ。世界で最も長寿なのに自分を健康だと思えない。
意識メタボが強すぎるとそんな風になってしまうらしい。

 

 

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