中村祐人インタビュー2016夏 2/5
第1章
本年5月、香港プレミアリーグの20152016シーズンが終了した。
中村祐人がキャプテンを務める黄大仙はシーズン終盤、レンジャース、そして元朗(ユンロン)と残留を争っており、黄大仙の残り2節はこの2チームとの直接対決であった。
結果はレンジャース戦が33で引き分け。最終節、引き分けでも残留決定の試合で元朗に1-4で大敗。この時点で黄大仙は自力残留がなくなり、レンジャースのリーグ最終戦(スケジュールの都合上、黄大仙は一足早くシーズンを終えた)を待って最終結果がわかる状況になった。
まずは、このシーズン終盤の話を聞いた。
—レンジャースに引き分けたものの、次の元朗戦は引き分け以上でも残留が決まるということで、チームには楽観的な雰囲気があったんですか?
中村「楽観的な雰囲気はなかったですが、レンジャース戦で2-3から追いついて勝ち点を取れたということで、チームの雰囲気はよかったです。当日になって、元朗戦が最後の試合になるある選手がキャプテンマークを巻くことになったり(普段は中村選手が巻いている)、契約上、出場できない選手がいたりはしていたものの、いつも通りやればいけるだろうという雰囲気はありましたね」
—そんな中、臨んだ元朗戦で1-4と大敗してしまいます。この試合を振り返っていただけますか。
中村「この試合は、まず僕自身が真ん中のFWで出られたということもありますし、チームも先制できましたし、序盤はすごくよかったです。ただ、先制点を決めた2分後には同点にされたり、また前半のうちに逆転されてしまいました。その2失点目はうちのGKの弱い部分が出たというか、勇気を持って前に出られない弱点があって、それが原因で失点してしまったりと、よくない点の取られ方をしてしまいましたね」
—しかし、同点でも残留が決まるわけですから、ハーフタイムでは当然、まずはきっちり同点に追いつこう!という雰囲気だったわけですよね?
中村「本来、そうあらねばならないところなんですが、ハーフタイムのロッカールームで波乱が起こってしまったんです」
—えっ?どういうことですか?
中村「2失点目のことですが、セットプレーの場面で、得点を決めた相手選手と、マークについたうちの選手との身長差が20cmもあったんです(黄大仙側が低い)。それは試合前からわかっていたことなので、当然、練習のときから対策をしていました。でも、やられてしまった。すると、ハーフタイムのロッカールームで、コーチがその選手をなじり始めたのです」
—まだ試合は終わっていないのに。
中村「はい。それもかなり激しく。なので、その日はキャプテンマークは別の選手に譲っていたけど、キャプテンとして、僕がコーチをなだめつつ、ポジティブな発言でなんとかチームが団結して後半に向かっていけるように呼びかけたんです」
—キャプテンとして責務ですね。
中村「ところが…それを聞いたコーチは『もういい!』と言って、ロッカールームを出て行ってしまったんです」
—えっ!?まだ試合中にも関わらずですか?
中村「はい。さすがにこれには、選手一同、唖然としてしまいましたね」
—それでどうなったんですか?
中村「とりあえず、その場は監督がみんなをまとめました。そして、相手にFKを与えてしまうような不用意なミスはやめよう、クリアミスをなくそうとみんなで確認しあって、監督のもとにひとつにまとまって後半を迎えようとしていました」
※このシーズンの黄大仙は変則的で、監督ではなく、コーチが実質上チームを取り仕切っていた
—すごいことになっていたんですね。
中村「でも、それだけでは終わらなくて…」
—まだ何かあったんですか?
中村「後半開始直前にそのコーチが突然、ロッカールームに戻ってくると、なんと『ユウト、チェンジ!』と」
—えぇ!交代ですか?
中村「はい。さすがにこれには僕もポカン…でしたね」
—で、交代させられたのですか?
中村「いや、そこは監督が『ユウト、いいから、後半も行け。おれはお前を信頼しているから』と」
—なるほど…本来であれば後半に向けて、チームを一致団結させて逆転へ向かわしめないといけない場面で、そんなことが起こっていたわけですね
中村「そうだったんです。後半に向けてロッカールームを出て行くときも、コーチに対する怒りを露にする選手がいたりして…雰囲気は最悪でしたね。」
—結果的に後半、さらに2失点して、1-4で大敗。自力での残留がなくなってしまいました。
中村「まぁ後半は点を取りにいったので、前がかりになったところを突かれた、というのもありましたし。ま
た、アンラッキーな部分もありました。僕のシュートがゴールライン上の相手DFに止められたりとか、いいところまではいくんだけど、最後の最後で決まらなくて…」
—前がかりになったり、不運な部分もあったが、やはりハーフタイムの騒動の影響はあったと思いますか?
中村「それはあったでしょうね…」
—コーチがチームというか、試合をぶち壊しにしてしまったようにも思えます。
中村「ただ、そのコーチを一年通して変えられなかった僕らの責任もあったと思います」
—選手たちの責任ということですか?
中村「というのも、この試合だけではないんです。そのコーチがハーフタイムに選手を責めるのは。シーズン通してそれはあったし、彼にそうならせない(選手を責めない)ようにさせることが、シーズン通してできなかったという部分では、選手にも責任の一端はあるのかな、と。今思えば、チーム全体として未熟だったのかなと思いますね」
続く
※当ブログでは、中国1部リーグの呼称を中国で一般的に使われている「中超」に統一いたします。「中超」は中国語の「中国超級」(中国スーパーリーグ)の略で、日本でいうJ1に相当します。また、香港プレミアリーグについては「香港プレミアリーグ」と記します。