中村祐人インタビュー2016春 1/3
2015年の年末。
チームが勝てない状況の中、男は語っていた。
「このまま続けていけば、必ず結果はついてくる」
そして、香港における新年である旧正月(2月中旬)を過ぎると、状況は彼の言葉通りになった。
香港プレミアリーグ第13節、14節と、中村祐人がキャプテンを務める黄大仙は2連勝を飾る。
さらに第15節。強豪・南華戦を11で引き分けると、チームは残留に向けて大きく前進した。
暖かくなったかと思えば、急に気温が下がったりと気まぐれな天候が続く3月の香港。
昨年末以来となる再会を果たした中村選手から話を聞いた私は、表面上の結果からは見えることのなかったチーム事情を知ることとなる。
2016年に入ってから、新たに2名のブラジル人選手が加わったことは事前情報として知っていたが、それがチームと中村選手にどのように影響したのか。
小雨が煙るその日、いつものように、コーディネーターのKさんがアレンジしてくれた見晴らしのいいホテルの37階にあるレストランにて、ランチをしながらひとしきり世間話を済ませた私たちは、早速インタビューを開始した。
—黄大仙の今季も残すところ、あと3試合となりました。現実的な目標としては、やはり残留ということになりますか?
中村「そうですね」
—残留争いのライバルとしては、ユンロンとレンジャースということになりますね。
中村「はい。この2チームとの直接対決を残しています。向こうも死に物狂いで来るでしょうし、うちとしてはもうやるだけですね」
—昨年のインタビュー時に、チームが結果を出せていなくても、「このまま続けていけば結果はついてくる」とおっしゃっていましたが、そのとおりになっています。そのあたりは、狙い通りという感覚でしょうか?
中村「実は、その後、一回(チームは)壊れていたんです。このチームはどこに行っちゃうのかな?という雰囲気がありました。コーチ陣と選手の間の距離が離れていってしまってたんです」
—そんなことがあったんですか。原因は?
中村「(第12節)レンジャースとの直接対決があって、そこで負けてしまうと、うち(黄大仙)が最下位に転落してしまうという状況でした。その試合、前半は11で折り返しましたが、内容はすごくよかったんです。ただ、ハーフタイムで僕は交代を告げられました」
—前半だけの出場になってしまった?
中村「はい。その采配で、チーム全体に『うん?』というような空気が出てしまった。そして後半、内容も全然だめで、結局試合に負けてしまったんですね。これによって、チームの雰囲気が切れてしまった。開幕以来、『いつか勝てるぞ』と我慢してここまでやってきて、実際にやっといい内容のサッカーができてきたのに、なぜわざわざそれを壊すような采配をするのか?やってられないよ!というような雰囲気になってしまったんです」
—これまで信じて続けてきたサッカーを突然、無にするような采配に、選手の間で不満が出た、と?
中村「そうです。その試合後の練習は、あまり空気がよくなかったですね」
—しかし、次の第13節では、結果が出た。
中村「(第13節は)サザンとの試合でした。明らかに僕たちのほうがいいサッカーをしていたのに、ゴールを奪えず、01で負けている展開でした。そこで、監督は60分くらいで、私ともう一人のキープレーヤーであるボランチの選手を下げて、新たに二人の選手を投入したんです。その交代によって内容的には全然うまくいかなくなってしまった。ただ、結果的には、代わって入ったその二人が得点を決めて、21で勝利したんです。サッカーって、本当にどうなるかわからないな、と思いましたね」
—采配によって試合の流れが劇的に良くなったわけではなく、むしろ悪くなってしまった。にもかかわらず、ゴールが生まれて結果が出てしまった。
中村「そういう感じです。交代後に1点入ってから、みるみるチームが変わっていくのがわかりました。そして最終的に試合に勝利したことから、その後の練習も、またみんなでしっかり取り組めるようになって結束した。今思えば、あそこがターニング・ポイントですね」
—そして、続く第14節も黄大仙は勝利します。
中村「(第14節の)メトロ戦は2点差を逆転して32で勝ちました。ここでも結果が出たことで、チームの間にさらに一体感が増してしてきましたね」
続く